「厚木系ラーメン」@厚木

厚木系ラーメンとは、神奈川県央――とりわけ厚木市周辺で発展したご当地ラーメンの一系統を指す呼称である。横浜家系のように単一の発祥店から暖簾分けで広がった体系ではなく、複数の人気店・老舗・新興店の技術と嗜好が重なり合って形成された「地域集合型スタイル」である点が最大の特徴だ。そのため厳密な意味での“元祖”は存在しないが、味づくりや文化的影響力の面から源流的存在として語られる店はいくつかある。

代表格の一つが 本丸亭 である。透き通った塩清湯スープに手打ち麺、肉厚ワンタン、柚子や三つ葉といった和の香味を合わせた一杯は、「淡麗でありながら物足りなくない」という厚木系の方向性を象徴する存在となった。塩主体ながらコクを重視し、油に頼らず出汁設計で満足度を高める手法は後続店にも影響を与えている。

もう一つの源流として挙げられるのが 麺や食堂。戦後食堂系の流れを汲む中華そばを基盤とし、鶏ガラと豚骨に煮干しや節系を重ねた醤油スープで地域の支持を集めた。特にワンタン麺文化の定着に果たした役割は大きく、厚木系における「ワンタンは主役級具材」という認識を広めた存在でもある。

さらに山間観光地七沢に店を構える ZUND-BAR も、現代的厚木系を語るうえで欠かせない。鶏主体の洗練スープ、自家製麺、香味油の緻密な設計など、職人系淡麗ラーメンとして高い評価を受け、厚木エリアを“ラーメン目的地”へ押し上げた功績を持つ。

厚木系の味の特徴は、鶏ガラ・豚骨をベースに魚介出汁を重ねた淡麗〜中濃スープにある。横浜発祥の 吉村家 を祖とする家系のような超濃厚豚骨醤油とは対照的で、油量は控えめ、後味は軽やか。それでいて出汁の層を厚くすることでコクを確保し、「重すぎず浅すぎない」均衡点を狙う。麺は中細〜中太ストレートが主流で、スープとの絡みと啜りやすさを両立。具材はワンタン、低温調理チャーシュー、穂先メンマ、白髪ネギ、三つ葉、柚子皮など、香味と食感のアクセントを重視する。

成立背景には地域特性も大きい。厚木は国道246号や東名高速、工業団地、物流拠点、基地関連需要を抱え、職人・ドライバー・夜間労働層の外食需要が高かった。濃厚すぎると日常食にならず、淡麗すぎると満足感が足りない――その中間解を追求した結果、現在の厚木系バランス型ラーメンが磨かれていったと考えられる。

総じて厚木系とは、特定の創業者や系譜で語るラーメンではなく、地域の食文化・職人志向・競争環境が育てた集合的スタイルである。淡麗と濃厚の狭間でコクと食べやすさを両立させ、ワンタン文化と香味設計で個性を加えた“県央発バランス系ご当地ラーメン”――それが厚木系の本質と言える。

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