「湯河原系ラーメン」@湯河原

湯河原系ラーメンは、神奈川県西端の温泉地・湯河原町周辺で発展したご当地ラーメンの一系統で、淡麗で高純度なスープと端正な盛り付けを特徴とする。観光地・保養地という土地柄を反映し、「旅先でも食べやすい軽やかさ」と「専門店レベルの完成度」を両立させた現代型ローカルラーメンとして知られる。

系譜の中心的存在とされるのが 飯田商店 である。店主・飯田将太が確立した一杯は、地鶏主体の高純度スープ、厳選醤油ダレ、自家製麺、精密な香味油設計によって全国的評価を獲得し、湯河原をラーメン目的地へ押し上げた。もっとも、湯河原には従来から町中華や食堂のラーメン文化が存在しており、湯河原系とはそれら温泉地の日常麺文化に、現代淡麗ラーメン技術が融合して成立した系統といえる。

スープは鶏と水を主軸に、昆布や節系を補助的に重ねた透明度の高い清湯が基本である。油脂は最小限に抑えられ、黄金色から琥珀色の外観を持つ。味わいはあっさりしているが旨味密度は高く、「軽いのに深い」設計が特徴だ。醤油ダレには生揚げ醤油や木桶仕込み醤油を用いるなど香りを重視し、塩分の強さより余韻の長さを重んじる。

麺は中細ストレートが主流で、低加水寄りのしなやかな食感。スープの繊細さを壊さないよう主張を抑えつつ、歯切れの良さで満足感を補う設計が取られる。具材も低温調理チャーシュー、鶏チャーシュー、穂先メンマ、青ネギ、三つ葉などシンプルかつ上品で、和食的な美意識を感じさせる盛り付けが多い。

これに対し、同じ県西部のご当地系統である小田原系は性格が大きく異なる。源流とされる 味の大西 本店 を中心に発展した小田原系は、濃口醤油ダレと動物系出汁を前面に出した力強い味わいが特徴である。鶏ガラと豚骨を厚く炊き、色味も塩分も強い醤油を合わせ、表面にはラード層を張る。見た目は黒褐色で、いわゆる「しょっぱ旨い」キレのある濃厚醤油スープに仕上がる。

麺も対照的で、小田原系は幅広の平打ち縮れ麺を使用する。不均一な厚みと強い縮れによりスープを大量に持ち上げ、啜るというより噛んで味わう食感となる。具材はチャーシュー、メンマ、ナルト、海苔、ネギが基本で、ワンタン麺が看板となる店も多い。全体としては労働者食・宿場町食文化を背景にした「スタミナ醤油系」といえる。

両者の違いを整理すると、湯河原系は高純度淡麗・中細麺・少油・繊細志向、小田原系は濃口醤油・平打ち麺・ラード層・力強さ重視という対極関係にある。成立背景も、保養地・観光地需要に応えた湯河原と、宿場町・漁港・醤油文化圏で育った小田原とで大きく異なる。

総じて湯河原系ラーメンは、温泉地文化と現代ラーメン技術が融合した上質淡麗型ご当地麺であり、小田原系の重厚醤油路線とは対照を成す存在である。県西部という近接地域にありながら、軽やかさと力強さという異なる魅力を体現する二大系統として、神奈川ラーメン文化の多様性を象徴している。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする