河北町で提供される「肉中華」は、同町を代表する郷土麺「冷たい肉そば」を発想源に生まれた一杯である。もともと河北町は親鶏(成鶏)文化が根強い地域で、歯ごたえと濃い旨味を持つ親鶏を甘辛く煮付け、冷たい蕎麦に乗せた「冷たい肉そば」が名物として広く知られている。その味わいと構成を活かしつつ、蕎麦ではなく中華麺に置き換えた派生形が「肉中華」である。
最大の特徴は、冷たいまま提供される点にある。スープは蕎麦つゆをベースにしており、鰹節や昆布などの和風出汁に醤油ダレを合わせ、表面に鶏脂が浮く。冷製でありながら脂のコクがしっかり感じられ、あっさりと力強さを併せ持つ味わいになる。これは親鶏から出る旨味と脂がつゆに溶け込むためで、若鶏では出せない深みを生む重要な要素となっている。
具材の主役はもちろん親鶏のチャーシュー状の肉。噛み応えのある食感が特徴で、噛むほどに旨味が広がる。ほかには刻みネギがたっぷり入り、シンプルながら肉の存在感を引き立てる構成が多い。店によっては天かすや海苔を添える場合もあるが、基本は「肉・ネギ・つゆ・麺」という簡潔な組み立てである。
麺は中細〜中太の中華麺が用いられ、冷水で締めることで強いコシが生まれる。蕎麦よりも弾力があり、つゆや鶏脂をよく持ち上げるため、冷たいながらも食べ応えがある。和風つゆと中華麺の組み合わせは山形県内では珍しくなく、同県の冷たい麺文化の多様性を象徴している。
提供形態は通年の店もあるが、特に夏場の需要が高い。盆地特有の暑さを持つ内陸気候の中で、冷たく、それでいて栄養価と満足感のある麺として支持されてきた。地元ではラーメンというより「冷たい肉そばの中華麺版」という認識で語られることも多く、蕎麦文化とラーメン文化の融合例として位置付けられる。
河北町の肉中華は、親鶏食文化、冷たい麺文化、和風出汁文化という地域要素が重なって成立したご当地麺であり、山形県の多彩なラーメン・麺料理群の中でも、郷土料理との結びつきが特に色濃い存在となっている。