群馬県東部、いわゆる東毛地域に位置する 太田市 や 桐生市 周辺では、「東毛手延べラーメン」と呼ばれる独自のラーメン文化が育まれてきた。地理的に栃木県との結び付きが強く、近隣の佐野市とは生活圏・商圏の重なりも大きい。そのため麺文化の面でも影響関係が見られ、同じ北関東のご当地ラーメンである 佐野市 の佐野ラーメンと比較されることが多い。
しかし、両者を分ける最大のポイントが製麺技法である。佐野ラーメンが青竹を用いて生地を延ばす「青竹打ち」を特徴とするのに対し、東毛手延べラーメンは麺打ち台の上で最後まで手作業で延ばす“手延べ製法”を採用する。職人が生地を引き延ばし、折り重ね、さらに延ばす工程を繰り返すことで、均整の取れた細〜中細麺に仕上げていく。この工程によって生まれる麺は、表面が非常に滑らかで、つるりと喉を滑っていく独特の食感を持つ。
スープは地域の食堂文化を反映し、あっさりとした醤油味が主流である。鶏ガラや豚骨、野菜などをベースにした清湯スープは透明感があり、手延べ麺の繊細な口当たりを損なわないよう、過度な脂や塩分は控えめに設計されることが多い。結果として、重厚さよりも日常的な食べやすさを重視した一杯に仕上がっている。
東毛手延べラーメンの発祥店とされるのが、太田市の老舗 喜満 本店 である。長年にわたり地域の手延べ麺文化を支えてきた存在だったが、2025年に閉店したことで大きな節目を迎えた。もともと提供店舗は限られており、後継者問題や職人技術の継承の難しさもあって、現在は提供店の減少が課題となっている。
手延べという製法は機械化が難しく、時間と労力を要する。だからこそ、滑らかさとコシを両立した食感は他では代替しにくく、食べ手に強い印象を残す。地域密着型の食堂や中華料理店がそれぞれの技術で支えてきたが、担い手の減少は文化継承の面で大きな転換点ともいえる。
東毛手延べラーメンは、北関東における手仕事の麺文化を象徴する存在である。佐野ラーメンと地理的・文化的に響き合いながらも、手延べという別系統の技術で独自性を確立してきた。発祥店閉店という出来事を経た今、その価値はむしろ再評価されつつあり、地域の食文化遺産としての保存と継承が期待されている。