「平塚系タンメン」@平塚市

神奈川県中部、相模湾に面した宿場町・海辺の都市 平塚市 を中心とする地域には、「平塚系タンメン」と呼ばれる独特の麺文化が根付いている。名称こそ“タンメン”だが、一般的な中華料理店で提供される野菜炒めのせ塩タンメンとはまったく異なるスタイルで、見た目も味わいも独自性が際立つご当地麺である。

最大の特徴は、澄んだ塩味スープと白い細麺の組み合わせにある。スープは鶏ガラや豚骨をベースにした清湯系で、油分を抑えた軽やかな口当たり。強い旨味やパンチを前面に出すのではなく、優しく体に染み込むような穏やかな味わいに仕上げられている。そこへ合わせる麺はストレートの細麺で、やや柔らかめに茹で上げる店が多く、スープとの一体感を重視した設計となっている。

具材構成もユニークで、一般的なタンメンの主役である炒め野菜は乗らない。代わりにワカメやタマネギが添えられることが多く、場合によってはメンマやチャーシューすら入らないシンプルな一杯も見られる。この簡素さこそが平塚系タンメンの個性であり、毎日でも食べられる軽食的ラーメンとして地元に定着してきた。

発祥店とされるのが、1957年創業の老舗 老郷本店 である。独特の酸味を帯びた塩スープと細麺の組み合わせで人気を博し、「ラオシャン」の愛称で親しまれながら平塚系タンメンの代名詞的存在となった。惜しくも2025年に閉店したが、その味とスタイルは地域に強い影響を残している。

現在も系譜を受け継ぐ店として知られるのが 花水ラオシャン などで、地元客を中心に営業を続けている。各店で細かな味の違いはあるものの、澄んだ塩スープと細麺という基本構成は共通している。

また、平塚系タンメンは餃子とセットで食べられることが多いのも特徴だ。あっさりした麺に対し、焼き餃子の香ばしさと肉汁が加わることで満足感が補完され、地元では定番の組み合わせとして親しまれている。

派手な具材や濃厚スープとは無縁の、極めてシンプルな一杯――平塚系タンメンは、町中華文化と地域の日常食が融合して生まれた、湘南エリアならではの静かな個性派ラーメンといえる。発祥店閉店という節目を迎えつつも、その味の系譜は今なお地域に息づいている。

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