**上越とんこつ(上越豚骨醤油)**は、新潟県上越地方、とりわけ上越市周辺で親しまれているご当地ラーメンの一系統で、濃厚な豚骨スープに醤油ダレを合わせた力強い味わいが特徴である。一般に「新潟五大ラーメン」に数えられることは少ないが、地域密着型の人気ジャンルとして地元では確固たる地位を築いている。
成立の背景には、豪雪地帯ならではの気候と、港湾・工業都市としての労働文化がある。冬の厳しい寒さの中で体を温め、かつ高カロリーで満腹感を得られる麺料理が求められた結果、豚骨ベースの濃厚ラーメンが受け入れられたと考えられている。また、北陸自動車道の整備や物流の発展により、関東・関西のラーメン文化の影響が流入したことも、豚骨系が根付く要因となった。
スープは豚骨を長時間炊き出して作られ、白濁したコク深い仕上がりになる。ここに濃口醤油のタレを合わせることで、豚骨の脂と醤油のキレが共存する味わいが完成する。九州の豚骨ラーメンのような獣臭の強さは比較的控えめで、関東の家系ラーメンほど醤油が前面に出過ぎない、中間的なバランス型といえる。
麺は中太~太麺が主流。加水率はやや低めで、濃厚スープに負けないコシを持つ。縮れ麺を使う店も多く、スープの絡みを重視した設計になっている。トッピングはチャーシュー、ほうれん草、海苔、味玉など、家系ラーメンに通じる構成がよく見られる一方、もやしやキャベツを多く乗せる店もあり、ボリューム志向が強い。
代表的存在として知られるのが ラーメンショップ 上越店。いわゆるラーショ系の流れを汲みつつ、地元仕様の濃厚豚骨醤油を提供し、上越豚骨醤油の普及に大きく寄与した。背脂やネギを多用したパンチのある一杯で、労働者層から厚い支持を得ている。
また 麺屋 あした は、濃厚さと後味の良さを両立させた豚骨醤油で人気を集める店。クリーミーな豚骨に香味油を重ね、現代的な洗練を加えている。さらに らーめん だいじ も地元で評価が高く、重厚なスープと太麺の組み合わせで知られる。
上越とんこつの特徴は、「移入文化」と「地域適応」の融合にある。九州豚骨、関東家系、ラーショ系といった外来要素を取り込みながらも、新潟らしい濃口醤油文化や寒冷地仕様の濃厚設計へと再構築された。その結果、塩分・脂分ともにしっかりしつつ、どこか雪国向けの温まり方を感じさせる味に仕上がっている。
近年は若手店主による進化系も登場し、魚介豚骨を合わせたり、自家製麺を強化したりと多様化が進行中である。一方で、昔ながらのパンチ重視の一杯も根強く、世代や客層によって支持が分かれるのも面白い点といえる。
総じて上越とんこつ(上越豚骨醤油)は、全国的知名度こそ限定的ながら、上越地域の気候・産業・食文化を背景に発展した実力派ご当地ラーメンである。濃厚で力強く、それでいて醤油のキレを忘れない一杯は、豪雪地帯の胃袋を支えてきたローカルスタンダードとして、今後も独自の進化を続けていくだろう。